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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和55年(家)1362号 審判

申立人 川本政子

相手方 山崎一幸

事件本人 川本正

主文

本件申立を却下する。

理由

1  本件申立の要旨は、「相手方は、申立人に対し、未成年者である事件本人の養育料として、同人が満二〇歳に達する月まで毎月五万円を支払え。」というのである。

2  本件は、申立人より相手方に対する昭和五四年(家イ)第一一四号養育料請求調停申立事件として、昭和五四年二月一〇日当庁に係属したが、合意をうるに至らず、昭和五五年五月一九日調停は不成立となり、本件審判に移行した。

3  よつて、本件について必要な調査を遂げたところ、次の事実が認められる。

(1)  申立人(昭和二〇年五月二五日生)と相手方(昭和二〇年一月一日生)とは昭和四二年九月一三日結婚式をあげ、○○○区にアパートを借りて世帯をもち、昭和四四年一月六日長男正(事件本人)をもうけたが、相手方が激高しやすい性格の持主であるうえ、申立人もまた勝気な性格であるため、結婚当初から免角ささいな事でも対立して夫婦喧嘩が絶えない状態が続き、双方の仲人が仲裁にはいつて調整に当つたこともあつたが効をそうせず、申立人と相手方とは離婚することとなつた。その際、事件本人の親権者については双方が互いに監護することを主張して対立したが、話しあいの結果、「申立人は事件本人の養育費を請求しない、相手方名義の預金ならびに家具、調度品は全部申立人が取得する」こととして親権者を申立人と定めることにより協議離婚が成立し、昭和四九年八月一三日その旨の届出をした。なお、この預金の額については、相手方は三〇〇万円位だと主張し、申立人は二〇万円か三〇万円位であると述べているところ、記録によれば、相手方は預金通帳によりこれを確認したわけではなく、他に相手方の主張額を裏付ける資料もないのでその額は申立人の自認する範囲内の額と認めるのが相当である。

(2)  申立人は、離婚して以来事件本人を養育しているが、昭和四九年一二月五日から直方市にある○○○○○工業に事務員として稼働し、現在手取月額約一二万八、〇〇〇円の収入を得ており、市営住宅(家賃月額一万六、〇〇〇円)で事件本人と二人で一応の生活をしている。

(3)  他方、相手方は小倉北区にある○○○○株式会社に機械設計工として勤務し、現在手取月額約二一万円の収入を得ているが、その家族構成は昭和五二年九月八日再婚した佐智子と同女との間の長女薫(昭和五五年一月九日生)の三人である。借家(家賃月額一万五、六〇〇円)住まいで、不動産等の資産はない。

4  上記認定の事実によると、協議離婚に際し、申立人と相手方との間に、申立人が事件本人の親権者となり、その養育費は申立人が負担し相手方に対しその請求はしない旨の合意が成立したものといわなければならない。

ところで、両親が離婚する際いずれか一方が養育費を負担することを定めて親権者を指定した場合、その合意に反して子を養育する親が他方の親に対してその養育費を請求することは原則として失当というべきで、現に養育する親が経済上の扶養能力を喪失して子の監護養育に支障をきたし、子の福祉にとつて十分でないような特別の事情が生ずるなど上記合意を維持することが相当でない特別の事情が生じた場合は子を養育する親から他方の親に対し養育費を請求しうるものと解すべきである。

これを本件についてみるに、上記認定の事実関係によれば、未だ相手方をして養育料を負担せしめるを相当とする特別の事情が生じたものと解することはできない。

5  よつて、申立人の本件申立は理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 宮城京一)

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